登山ノススメ
初級冬山行動編

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     └―冬山の食料について

  1. 行動時の留意点

    当たり前なのですが、夏の場合、その温度の高さゆえ、多少の無理は利きますし、至る所に山小屋が点在していますが、冬の場合は何度も申し上げているように、山小屋の大半が閉鎖しており、いざというときに助けを呼ぶことができません。そこで第一に考えるべきことが「体力の温存」です。

    冬山では甚大な体力を消耗します。その消耗度を極力押さえるには、エネルギー効率のよい行動食を摂ることと、レイヤードを最大限に活用することです。

    冬は太陽が出ている時間が夏よりもはるかに短いので、行動時間もおのずと制限されます。さらに、早朝の気温はマイナス20℃〜30℃が当たり前のため、早朝の行動は避けるべきです。

    大体冬の起床時間は5時半〜6時が妥当です。GW、お盆、正月前後は5時半から短波ラジオで「高層気象速報」が放送されるため、この時間に高層気象図を取る人は多少余裕を持って起きましょう。

    出発時間は大体7時半〜8時前になります。この時間になれば太陽も出、視界も開けているので晴天時に行動に支障をきたすことはないでしょう。

    ラウンド数は4〜6くらいが適当です。1時間行動、10分休みというのは夏と同じです。

    その日の行動の終了はとにかく早いに越したことはありません。3時4時にずれ込むのは極力避け、無理なスケジュールは組まずに、2時くらいまでには行動を終わらせることを心がけましょう。あまり遅くなり、行動不能になると、ビバーク(下記)することになります。


  2. ホワイトアウト

    吹雪は激しくないのに、軽く、細かい雪が霧のように漂い、雪面と空間との区別がつかなくなることを言います。こうなると視界は50cm前後になり、行動不能になります。このときに行動すると、方向感覚を見失い、リングワンデリング(同じ場所を輪を描いたようにぐるぐると回ること)に陥りやすくなり、また雪崩を引き起こしたり、雪庇を踏み抜いて滑落する危険性が高まります。

    ホワイトアウトが発生したときは、すぐに行動を打ち切り、テントを設営できるような場所であれば、その場でテントを設営してとどまりましょう。できない場合はビバーク(下記)することになります。
    なお、何時間も視界ゼロというわけではなく、時折ガスが薄らいで一方向の視界が開けるときがあり、そのチャンスをすばやく捉えて方角を確認すると、ある程度の移動が可能になります。


  3. ビバーク

    不慮の出来事で行動時間が予想以上に取られ、その日の目的地に付く前に幕営することになる場合のことをビバークと言います。この中でも特に、
    ・ビバークした場所が幕営不能な場所
    ・ピストン行動中で、テントを所持していない場合

    には特殊なビバークの方法をとります。

    ◎雪洞

    雪面に穴を掘り、そこで生活することです。近年はテント装備の軽量化、充実により、ビバークの場合以外で雪洞を活用するケースが激減しました。

    • 雪洞に必要な装備

      • スノーエンピ
      • スノーソー
      • 台所用のビニール手袋(手の温度低下防止)
      • ツェルト(テントのフライシートでよい)
      • 標識(スキー板やペナントなど)
      • コッフェルとバール(緊急時のスノーエンピの代用や、細かく削るときに使う)
      • ピッケル(同上)
      • 雨具(掘っていく過程で雪まみれになるので、濡れを防止するため)


    • 雪洞のタイプ

      • 縦穴式
        平坦地、または緩斜面での雪洞で、掘るのが楽だが、横穴式よりもかなり寒く、天井はツェルトで覆うだけなので、大雪の場合に天井が抜けやすい。

      • 掘り抜き式
        雪面を縦に掘り、そこから横に掘りぬくもの。屋根の支柱にはスキー板を使う。掘るのに非常に労力と時間がかかるため、余り使われないが、居住性が抜群によい。ただし、掘り下げる形になるので、横穴式よりも寒い。

      • 横穴式
        もっともスタンダードな形で、比較的急な斜面に構築する。長所としては、風や降雪などの気象条件の影響を受けにくいことと、居住性がよいこと、短所は時間と労力が非常にかかる(1人用でも1時間半はかかる)こと、構築場所が雪崩の危険がない、雪が多い場所に限定されることと、湿度が高く、濡れやすいことなどである。

    • 横穴式雪洞の構築方法

      1. 予定した場所の天井にあたる雪面を十分に踏んで、あらかじめ強化する。

      2. 次に斜面を垂直に切り出す。この部分を入り口を掘り出すところにする。

      3. 玄関部にあたるところを数十cmから1mくらい掘り進んだ後、奥の生活スペースを掘り出す。床面積は一人当たり縦200cm、横50cm程度。この時、入り口付近から少し上に角度を付けて掘らないと、掘り出した雪を出すのに苦労するので注意。

      4. 掘り出した雪を一度に捨てられるようにするために、入り口にツェルトを敷いておく。

      5. ある程度掘り進んだら、内壁の形をドーム状にしながら(水滴が真下に落ちないようにするため)、壁から天井へと慎重に掘っていく。

      6. 掘削作業が終わりに近づいたら、エンピの扱いを慎重にして、天井に傷をつけないようにする。傷から水が滴るため。

      7. ある程度の荒仕上げができたら、バールやコッフェルのふたなどで形をよりドーム状に仕上げる。

      8. ピッケルのシュピッツェ(先の尖突部)を天井に突き刺し、換気口を作る。これがないと、吹雪で入り口がふさがった時に窒息するので、必ず作る。この時、ついでに雪面に棚を作って、そこに食料や小物を置くと、より快適になる。

      9. エンピで十分に叩き固める。防寒のために、床面の周囲に幅5cm。深さ5cmほどの溝を掘る(冷たい空気は低いところに沈むため)。

      10. 入り口をある程度、ブロック(構築の段階で出来るので、新たに作らなくてよい)でふさぎ、寒気を防ぐために入り口をツェルトで塞ぐ。

    • 横穴式の注意点

      • 炊事や睡眠時の酸欠に注意する。ローソクが消えそうになったり、マッチがつきにくくなったら危険である。換気口に工夫を凝らしたり、入り口を大きくしたりする。

      • 降雪時には埋まってしまうことがあるので、エンピやピッケルは必ず手の届くところにおいておく。

      • 気温が上がると雪がゆるくなり、崩壊する恐れがあるので、コンロや暖具で洞内の気温を上げ過ぎないようにする。天井部で5℃を超えると危険。このため、炊事は入り口付近でやることが理想。

  4. 稜線を縦走するときの注意点

    遠くから地形をよく見、雪庇がどう張り出しているかを見極めます。日本の山岳の場合、大体北〜北西から南〜南東にかけて雪庇が張り出しているため、それを念頭に入れながら見定めるようにしましょう。

    歩くときは常に雪庇を踏み抜かないように注意します。

    雪の張り付かないような稜線を歩くときは、岩が非常に滑るため、慎重に歩かなければなりません。手を使って登るときは、とにかく3点支持の原則(壁に取り付いて手足を動かして移動するときに、左右の手足を一つずつ動かしながら移動する手段)を遵守しましょう。

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