登山ノススメ
冬山での疾患について

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  1. 雪盲

    強い紫外線を直接目に受けると、目の角膜が日焼けした状態になります。こうなると、数時間後に眼痛を覚え、充血して目がちかちかしたり、涙が止まらない状態になって、眼が明けられなくなります。雪盲の状態が強いときは一時的な視力低下を引き起こしますが、次第に回復し、後遺症を残すことはありません。

    対策は一つ。サングラスを着用することで防げます。

    治療法は、患部に冷湿布か冷水で冷やし、消炎鎮痛剤やステロイド点眼薬を投与します。また、目の痛みが和らいだり、最初から症状が軽い場合は温湿布をすると効果的です。

  2. 凍傷

    凍傷とは冬において最も多くある疾患で、皮膚や筋肉などの体組織が凍結することでかかります。手足の指、耳たぶ、鼻、頬などの部分がかかりやすい部位となります。

    症状としては初め、冷たい感じとなり、次に痛みとなります。さらに進行すると感覚が麻痺状態となり、次第に皮膚が壊死します。

    症状は程度の軽いものから第1度、2度、3度の3段階に分類されています。なお、凍瘡(とうそう。しもやけのこと)は凍傷とは別のもので、寒さに対する生体反応の一種であり、組織の凍結ではなく、したがって5℃程度の気温でも急激な温度低下の結果であれば生じることがあります。


    度数 第1度 第2度 第3度
    症状名 紅班性凍傷 水疱性凍傷 壊疽性凍傷
    症状 皮膚が赤くなり、青くなって腫れ、温まるとかゆみや灼熱感があり、鮮やかな紅色となって普通の色に戻る。 大きな水ぶくれができる。破れるとただれる。この段階で化膿させないように治療すればほぼ100%回復する。 ただれたところが黒く壊疽状になり、さらに重くなると、時として骨にまで達する。この場合、組織が壊死しているので再生は不能で、従って切断する必要がある。

    凍傷は細胞組織の温度が凍結するまで下がっていなければ起きません。一般的には外温度がマイナス10℃以下にならなければ凍傷にはならないと言われています(細胞には蛋白質や塩分が含まれていて、これらはマイナス4〜5℃にならないと凍結せず、また、外気温が下がっても身体組織は体温があるために、すぐに外気温と同じにまでは下がらないため)。

    風と気温の関係には「風冷の法則」というものがあり、風によって体温が奪われます。これが俗に言う「体感温度」です。この場合、手袋や靴がぬれていると蒸発熱が奪われるため、風が強いほど凍傷になりやすくなります。風冷の法則では、マイナス10℃のときに風速7m/s以上、マイナス15℃のときに5m/s以上、マイナス20℃のときに3m/s以上だと凍傷が起こりやすくなります。

    他に体温を下げる原因として、酸素、糖質、脂質の欠乏などが挙げられます。

    対策としてはまず「体温の保温」を心がけ、予防をすること大切です。かかりやすい部分を覆って、外気を遮断すること、その部分の血液の循環を妨げないように工夫しましょう。クロロファイバーの手袋をつけるなどすると、指の凍傷はかなりかかりにくくなります。また、身体、とりわけ手足を長時間静止させないことが大切です。

    治療法としては、まず皮膚が凍結して白くなっていれば、すぐに融解する必要があります。はじめはプラス20℃の水に1時間浸し、体温で30℃にします。以後、40℃の温水で凍結融解が終了するまで浸します。紅班、水疱の状態や、凍結融解後は、血流をよくするために手ぬぐいを使って温湿布を続けます。

    なお、水疱を破ったり、患部を擦ったり叩いたりしてはいけません。化膿する危険性が強くなります。そうした意味でも凍傷部位の装着品は無理に脱がせず、ナイフなどを用いて裂いて外すとよいでしょう。第3度で、さほど症状が重くなければ、抗生物質や副腎皮質のホルモン軟膏を塗るとある程度は治りますが、第3度にまでなれば、痕跡は残ります。

    全身的な処置としては、この状態だと血糖値が下がっているので、糖分を多く含んだ暖かい飲み物を与えます。

    第2度、3度の場合は早めに医者に診察してもらわなければなりません。特に第3度の場合は手遅れになれば切断を免れません。

  3. 凍死、凍沍(とうご)

    凍死とは、体温が20℃以下になって死亡することであり、凍傷とは根本的に違います。

    人間の体温は常に36℃〜37℃前後に保たれていますが、気温が低くなると体温が逃げ出します。体温を保つために人間の身体は筋肉を引き締めたり、震えを起こしたり、自発的に身体を動かすことによって熱を発生させ、体温の低下を防ぐ仕組みになっています。

    しかし産熱能力を上回る寒さであったり、あるいは疲労困憊状態でエネルギーが残っていない状態になると、産熱能力がなくなって体温が低下します。28℃ 以下になると蘇生は難しくなっていき(この死の一歩手前の状態のことを凍沍と言います)、20℃以下になると死亡(凍死)します。

    凍死に至るまでの症状は大きく以下の4つに分類されます。


    正常な直腸温は37度、血糖値は80mg/dl〜100mg/dl。
    期数 第1期 第2期 第3期 第4期
    直腸温
    血糖値
    36〜34℃
    70〜50mg/dl
    34〜27℃
    50〜30mg/dl
    27〜22℃
    30〜20mg/dl
    20〜18℃
    20mg/dl以下
    症状 猛烈に寒く、震えが止まらない状態になる。脈拍、呼吸数増加、血圧上昇。意識ははっきりしているが、食欲は減退することがある。 大脳の活動が低下する。脈拍や呼吸が弱まり、血圧下降。皮膚が暗紫色になる。身体が硬直し、筋肉の痙攣が起こる。さらに進むと呼吸困難になり、眼前が暗くなり、歩行能力の低下、意識の低下、さらには感覚も低下する。猛烈な睡魔に襲われてあくびを連発する。幻想、幻覚を見、時に興奮状態になって暴れたり、衣服を脱いだりする。 血圧がさらに低下、筋肉が弛緩し始め、尿や便が体内にあれば失禁する。意識がなくなり、仮死状態になる。 死亡。

    対策としては、まず予防については、エネルギー源(とりわけ糖質と脂質)を十分摂取するように努め、また、体温を逃さないように、保温効果のよい衣服を用います(レイヤードシステムについて)。皮膚を水濡れから守り、濡れてもダメージのない衣服を選びます(素材について)。カイロなどの加温具も効果的です。

    道に迷ったり、天候の急変に遭遇したときが余力のあるうちにビバーク態勢を取りましょう。ビバーク時において、「眠ったら死ぬ」というのは俗説で、むしろ暖かいものを十分に摂り、糖分を含んだ場合は、眠ることで体力が回復します。それでも凍死するような状況であったとしても、凍死前、寒さのために目が覚めます。

    凍沍状態における処置としては、脈拍があり、息が残っていれば蘇生する可能性があります。山小屋やテントに運び入れ、濡れた着衣を脱がせて身体を拭き、乾いた肌着を着せた上でシュラフか毛布にくるみ、身体の周囲をカイロや湯たんぽなどで暖めます。この時に低温火傷にならないように注意しましょう。

    意識が戻り、額に汗が出てきたら保温具を除き、暖かい砂糖湯を飲ませます。糖は多いに越したことはなく、欲しがるだけ与えましょう。もしあれば、ビタミンB1やCの含んだ栄養剤を与えると、糖分の燃焼を促進させます。よく身体を温めるために酒を飲むという話を聞きますが、これは体温放散が増強されるので、逆効果となります。

  4. 日焼け

    太陽光線による一種の火傷であり、予防が大切です。日焼けによって痛みのあるときは抗ヒスタミン軟膏を塗り、その上を濡れタオルで冷やします。アスピリン(消炎剤)で痛みはかなり緩和され、苦痛は大抵一晩で取れます。水疱が出てきたときは、上記の手当てをした後、破らないで清潔なガーゼを当てて患部を保護します。

  5. 唇の荒れ

    特に春山において、唇の周囲がひび割れて刺激痛を伴うことがよくあります。予防にも手当てにも、リップクリームを塗ります。これが一種の日焼けであることが、厳冬期より春山に多いことから想像できます。

  6. 血行障害

    凍傷になるきっかけと同じで、体温が下がることで手足の指先に血液が通わなくなることを言います。予防も治療法も凍傷と同じです。

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