登山ノススメ
3000m縦走へステップアップするための講座1 基礎編(形式・装備)

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ハイキングで山に出かけることがあります。しかしあれは「登山」ではなく、「ハイキング」です。登山というと「禁欲的」なイメージが強く、どちらかというと日常、私たちは敬遠しがちですね。

確かに本格的な登山となると、自己をコントロールする強い意思力が必要となってきます。そして普段使わない体力、気力という面でも消耗します。

しかし「普段使わない」というのがポイントなのです。

あなたは毎日毎日、同じように過ごす日常が必ずしも楽しいと思えますか?何か苦難があることでしょう。時には逃げ出したくなることがあるかもしれません。

私はそんな時、山にいったりします。時代遅れとか思われるかもしれませんが、静かで、人もほとんどいない、まだ文明に侵されていない場所にいると、本能的に心が落ち着くものです。普段使わない体力、気力を使うことで、自分の中の淀んだ何かが消え去っていくような感覚さえ覚えます。

「登山」は遊びとは違います。一種のスポーツです。ただし、われわれ一般人の範疇で他のスポーツと大きく違うのは、スコアや時間を競うということがほぼ皆無だと言うことです。

エキスパートともなれば、その高さや条件なども競いますが、結果主義や勝利主義などの要素などはほとんど立ち入る隙もありません。むしろ彼らは自己回復のための自己確認などに、その体力、精神力、技術などを向けているということで、それは地位や名声などとはほとんど、いや、まったくといっていいほど関係ないものなのです。

彼らはそうした人間の本質に必然的に気づいてしまっており、いくら山に登っても、そしていくら肉体が傷つこうとも、再びその場所へ飛んでゆくのではないかと私は思います。

  1. 登山形式について

    ここでは縦走について述べます。縦走とは、簡単に言えば登山口Aから山に入り、違う登山口Bに降りていく登山形式のことを言います。それは泊数に関係なくそう言います。逆に、ある拠点から頂上を目指す登山形式を「ピストン」といいます。ピストンの場合はある1箇所に拠点を作れば、そこに荷物を置いて登頂アタックということも可能で、日本においては比較的楽な登山といえます。 縦走する場合、その食料、着替えなどの荷物を全て運び続けなければなりません。それゆえにピストンよりもはるかにつらいものとなりますが、常に違う景色、ルートが展開され、非常にスリルのあるものとなります。縦走はいわば、日本における登山の王道とも言えるものです。

  2. テント泊と小屋泊

    テント泊と小屋泊ではその装備が大きく異なります。小屋の場合はほとんどの場合が布団、食事つきで、シュラフ(寝袋)や食料、コッフェル(小型携帯鍋)、火器、そしてテントを持っていく必要がないからです。この場合はかなりの軽量で縦走をすることができます。

    ただし小屋の場合、その利用料金が高く、中〜長期間の縦走となると、相当の金額がかかり、財政的な負担も大きくなります。そこで3、4泊からの縦走の場合は、テントを利用する場合がほとんどです。

    小屋とテントの利用料金(一般的な南北アルプスの小屋とテントサイト。場所によって異なることがあります)

      テント 小屋3食つき 小屋2食つき 小屋1食つき 小屋素泊まり
    南アルプス 400円 なし 5500円 4500円 3500円
    北アルプス 500円 9700円 8400円 6800円 5500円

    一見しておわかりのように、南アルプスのほうが割安です。これには大きな理由があります。南アルプスは湧水や地下水が豊富でかつ、その透明度が高いため、水をポンプ等で引き込むといった費用がほとんどかからないのです。主なところでは、北岳山荘(2880m)が1リットル100円を取るのみで、ほかの小屋の大半は水が無料です。

    一方の北アルプスは水源の標高が低く、かつ水源の数も少ないため、標高の高い小屋へはポンプで低いところからくみ上げて水を確保しています。その諸費用の還元のためにほとんどすべての小屋で水代を徴収し、さらに小屋の利用料金を割高にして補っています。水代は1リットル100円のところと200円のところがほとんどですが、どちらかというと200円のところが多いようです。まれに300円のところもあります。

    一昔前の山小屋というと、古ぼけた木の扉で、そこをあけた瞬間、暗い、古い、汚い、のいわゆる「3K」といったイメージが幅を利かせていましたが、近年はそれらのイメージを払拭したきれいな山小屋が相次いで建てられています。テントを利用するよりも10倍以上金がかかるのも納得というところも多いようです。中でも日本第3の巨峰、奥穂高岳(北アルプス南部、3190m)の北の鞍部(山と山の間の部分のことです)にある穂高岳山荘は非常にきれいで、設備も整っています。

    一方のテントサイトは大体が石が取り除かれただけの粗末なもので、自分たちで地面を均してからでないとテントを張ることもできません。しかし風情という点ではいいものがあります。夜中に用を足したいと思って外に出て、ふと上を見上げると、そこは一面の星空。下では決して見えることのない絶景です。

    私は慢性金欠病なので、いつもテント泊ですが、決して小屋を利用しようとは思いません。自ら米を炊き、自ら食事を作ってこそ、縦走には大きな意義を感じるわけですね。

  3. 装備全般

    1. 行動時の装備

      • アタックザック
        これがないとお話になりません。装備の基本中の基本。

        ザックには様々な大きさがあり、単位はリットルであらわします。ハイキング用の20リットルから、長期縦走用の100リットルまであり、中期縦走であれば65リットル〜80リットルくらいのザックがいいでしょう。メイカーは「モンベル」が大量生産のため、100リットルでも¥12000ほどで買えますが、作りが雑なのでちょっとした負荷で紐が切れたり、ほつれたりすることがあります。標準的なザックは、100リットルで¥25000〜¥40000します。

      • 登山靴
        キャラバンシューズではだめです。必ず登山靴にする必要があります。靴というのは、歩く際の初歩的な装備で、これの善し悪しで行動の効率が決まると言っても過言では有りません。一番よいのは皮張りのしっかりとしたもので、¥25000位します。ここまでいかずとも、少なくとも¥20000ランクくらいの靴を買ったほうがよいでしょう。靴はケチってはいけません。

        なお、靴紐の予備も必ず持っていきましょう。これは¥300くらいでいろんなカラーのものが売っています。

      • 雨具
        山では体温の調整がより重要になります。体温の急激な高低が、高山病につながることさえあります。ちょっとした雨でも、体温を下げないようにするために、面倒くさがらずに雨具を着ましょう。

        雨具も靴と同様、ケチるとかなりひどい目にあいます。ナイロンの雨具だと汗で中が蒸れてしまって、休憩時に体を冷やしたりする結果になるので、こればかりはゴアテックスのしっかりとした雨具を買う必要があります。¥11000くらいします。

      • 細引き
        丈夫な紐です。持っておくと何かと役に立ちます。1m単位で売っていますが非常に安価なので、2mのものを1本買っておきましょう。

      • ザックカバー
        雨のとき、ザックがぬれないようにするためのものです。80リットル用だと¥3000くらいで売っています。

      • コンパス
        複数行動の場合、少なくともパーティリーダーとサブリーダーは持つ必要があります。これは「読図」(行動編で後述)という技術に欠かせないもので、方向ばかりでなく、その位置を知るためにも重要なアイテムになります。ゴム紐を付け、行動中は首から下げておきます。

      • ホイッスル
        パーティとはぐれたり、滑落するなどして周囲がわからなくなったときにこれを吹きます。

      • 地図
        山の場合、その地帯を総合的ガイドし、記した「エアリアマップ」と決まった各地域のみを記した国土地理院の1/25000、1/50000の地図が一般に用いられますが、アルプス縦走の場合は行動時に今いる位置を確認するには、1/25000の地図を使うべきでしょう。1/50000だと、小ピークや小さな鞍部(山と山との間にあるくぼ地)が書いていない場合があるからです。行動が終わり、次の日のルートを計画、確認するときには「エアリアマップ」も役に立ちます。両方持っていきましょう。なお、国土地理院地図は大きな本屋でないとありません。東京であれば新宿の紀伊国屋書店、大阪であれば梅田の紀伊国屋書店や旭屋書店といったクラスの本屋に行く必要があります。

      • カメラ
        様々な絶景をフィルムに収めたいでしょうから、持っていくことをお勧めします。特に朝焼けなどは平地では決して見られない素晴らしさがあるので、ついシャッターを押したくなるはずです。
       
    2. 生活用品

    3. 衣類

      • 防寒具
        ウールのセーターやシャツが効果的です。夏山でも朝夕は冷えるので、必需品です。ないと夜寝られないことさえあります。

      • Tシャツ
        1日1枚が原則です。ただし、かさばるのが嫌なら多少減らしても可です。とにかく汗をかくことはエネルギーの消費につながり、濡れたままのシャツで行動すると、それは更にひどくなります。濡れた場合は面倒くさくてもなるべく取り替えたほうがよいと私は思います。

      • 下着
        山用のクロロファイバー(ポリエチレン系の合成繊維)かシンサレート(薄い割に暖かいという中綿素材の合成繊維)の下着というものもありますが、男性の場合は特に必要ありません。女性の場合は多少は需要があるかと思いますが、さほどでもありません。普通の下着でいいでしょう。男性の場合、衛生的にブリーフよりはトランクスのほうがいいようです。

        着替えるのが面倒な人は降りた後用の下着1枚だけ予備として持っていくということもありますが、それではさすがに不潔なので、まぁ2日に1枚ということで、5日で3枚くらい持っていきましょう。

      • ズボン
        ニッカボッカというウールのハーフズボンがありますが、あれは夏ではさすがに暑いので、普通のトレパンで十分です。

      • 靴下
        これは靴擦れを防止するためにもしっかりとしたものを買う必要があります。山専用の靴下としてウール素材のものがあります。膝までの長いものと、足首の上程度の短いもの1セットずつ、長いものを下にして二重履きにします。これも一日だけでかなり臭くなるので、予備をもう1セットずつ持っていきましょう。

      • サンダル
        テントサイトでいちいち靴を履くのが面倒くさいので、これがあると意外に役立ちます。ビーチサンダルであればかさばらないし、いうことなしです。
       
    4. その他

      • 保険証コピー
        怪我で小屋の診療所や病院に行く場合に必要です。これはあらかじめ、山付近の医療機関に連絡しておくことがベストです。緊急の場合にはコピーが使えないことがあります。

      • 衛生用品
        バンドエイド、風邪薬、胃薬、三角巾など、基本的な医療用品を持っていきましょう。特にテーピング用テープは必ず持っていきましょう。

      • ビニール袋大・小
        これはゴミ袋としてだけでなく、いろんな装備をパッキング(後述)するために必要不可欠なものです。大は45リットルと90リットル、小は20リットルのことを言います。

  4. パッキング

    山に持っていけるものには限度があります。あまりに大きいとザックのバランスが悪くなるし、また、ザックに入らなくなります。そこでビニール袋に装備を入れ、空気を追い出して密閉するのです。これでかなり小さくなり、重量も空気の分だけ軽くなります。そしてザック内の無駄な隙間も減り、結果的により多くの荷物を入れることができるようになります。面倒くさがらずに必ずしましょう。

    基本的に個別パッキングは二重でし、柔らかいものであればすべてパッキングをします。衣類(使う前のものも、使った後のものも)やシュラフ、雨具、食料などです。食料の場合はあらかじめパッケージを開け、中身だけをビニールに二重でパッキングをします。漬物なども、汁は捨てて、残りを個別パッキングするわけです。なお、米もパッキングします。

    個別パッキングしたものは種類ごとに大きなビニールに入れます。そしてビニールに布テープを張り、そこにマジックで「衣類」とか、「食料」とか書いておくと便利です。 そして出発時のザックパッキングは、重いもの、大物を下にします。行動中にまず出しそうにないものを下にし、雨具やちょっとした小物を上にしておくとよいでしょう。

    最後に上からしっかりと押し込んでパッキング終了です。このテクニックも意外と重要なものなので、怠らないようにしましょう。

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