登山ノススメ
3000m縦走へステップアップするための講座2 行動編

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  1. コース設定

    • コースタイム

      「エアリアマップ」には「コースタイム」というものが記されています。AポイントからBポイントへ移動するのに要するおおよその時間が書かれているわけです。それを足していきながら、1日ずつのコースを設定します。

      「エアリア」のコースタイムは、大体中年が普通に歩く程度のペースで、若者が歩くよりも多少遅く設定されています。これを頭に入れながら設定しておけば、比較的容易にコースを決められるでしょう。

    • ラウンド

      歩く距離より重視されるのは歩く時間です。50分〜1時間歩いて10分休憩するというサイクルを「ラウンド」といいます。このラウンド数と、小屋やテントサイトまでの時間を計算して経路を決めていきます。

      5日ほどの縦走であれば、1日につきコースタイム6〜7時間(6〜8ラウンド)という設定が最適でしょう。これ以上ラウンド数を増やすと、日数が重なるにつれて体力的に苦しくなります。

      体力的に多少自信がない場合、5日の縦走の中に1日くらい4ラウンド程度で終わるコースを設定するとよいでしょう。

    • エスケープルート

      不慮の事態に備えて、あらかじめ「エスケープルート」を設定します。縦走していくコースから「最短距離」で下山できるルートをそれとして設定します。これは必ずしも縦走路上とたどるものではなく、縦走路から外れていくコースでも、とにかく「最短距離」で下山できるルートを設定するわけです。その途中に山小屋があるか、水場はあるかなどもあらかじめチェックしておきましょう。

  2. 読図

    これは今いる地形とコンパス、地図を照らし合わせて現在地を割り出す技術で、特にコースがわかりにくいようなところで力を発揮します。コツは小ピーク、崖、鞍部、ケルンなどの地形から判断することですが、エアリアマップがあればそれほど迷うこともないので、近頃の登山者からは忘れられつつある技術でもあります。

    しかしいざというときには力を発揮することだけは確かで、冬山のように地形そのものが雪で覆われてしまう場合でも、わずかな手がかりからでも探し出せるようになります。

    複数パーティの場合、最低限一人は読図の技術を身につけている人がいるとよいでしょう。

  3. マナー

    • 落石

      コースの至る所に小石があります。これをうっかり蹴飛ばして、下に落としてしまった場合、すぐさま「ラク!」と叫んでください。落ちた石そのものは小さくとも、その連鎖で大きな石にぶつかり、次々と落石を起こす可能性もあるのです。落石は毎年のように怪我人や死者を出している、恐ろしいものです。

      上から「ラク!」という声が聞こえてきた場合、大きな岩の陰に隠れるという手段や、自分が背負っているザックを山側に向け、ザックの影になるようにうずくまるなどという手段があります。

      いずれにしても、落石を起こさないよう、注意深く歩きましょう。
       
    • 立入禁止区域

      アルプスは貴重な高山植物が群生しています。国はそれらがある区域を国定公園とし、動植物、土砂や石の採取を禁止するとともに、コース外に出ないようにロープを張って動植物を守るように定めています。

      とりわけ南北アルプスの森林限界点(おおよそ標高2600mくらいになると、這い松などを除いて樹木が生えなくなる)よりも標高の高いところでは、厳しく指定されており、植物などを採取すると法律により罰せられることもあります。夏は植物が美しい季節ですが、それはあくまで観賞するもの。コース外に出るようなことはやめましょう。

      そもそも私たちが山に入ることは、自然という世界に異物が入り込んでいるといっても過言ではありません。その自然に対しては、いつも謙虚で慈しみの心をもって接したいものです。
       
    • ゴミ

      われわれはどうしてもゴミを出してしまいますが、モラルとしてこれらは持ち帰らなくてはいけないとわかってはいても、つい・・・、ということで、夏道には雨の袋やみかんの皮など、多く捨てられています。

      これはテント泊よりも小屋泊の登山者のほうが顕著です。小屋泊のほうがテント泊よりも出るゴミが少なく(食料の持込みなどをしないから)、ゴミを出すという意識が薄いからです。

      これはごく当たり前のことですが、俺だけなら・・・、などと甘い気持ちで考えてはいけません。ゴミは持ち帰って当然。山小屋によっては缶のゴミを捨てさせてくれるところもありますが、なるべく使用しないようにしましょう。
      なお、ゴミは分別し、缶類は石で潰して持って帰るほうがよりかさばらなくなります。

  4. パーティ編成

    まずはサブリーダー(SL、コースリーダーともいいます)とパーティリーダー(PL)を決めます。SLには体力的に自信がある人を定め、その人は先導役として一番前を歩きます。浮石や危険物が落ちてはいないか、そういうことを注意深く観察し、後方からついてくる他のメンバーを安全に導く、重要な役割です。PLには体力はもちろん、総合的な判断力、経験、そして冷静さを備え持った人を定め、その人は一番後を歩きます。後方から他のメンバーの様子を冷静に観察し、ペースが早ければSLに忠告するなどのリーダーシップが要求されます。さらに、悪天候や非常事態の時の行動を素早く正確に判断し、他のメンバーを不安にさせないようにしなくてはなりません。

    SLのすぐ後ろのメンバーをセカンドといいます。セカンドは体力的に一番自信がない人を歩かせます。SLがセカンドのペースを踏まえながら全体のペースを決めていくわけです。

    その後は体力順に編成します。ない人ほど前にします。

    また、二人パーティの場合はより多くの経験がある人を前にするケースが多いようですが、先頭は何かと気を遣い、精神的にも体力的にも相方よりも消耗するので、場合に応じて前後を入れ替えることもあります。

    ◎パーティ編成図

     前 SL‐セカンド‐○‐○‐・・・・・・‐PL 後

    山では「みんな平等に」という論理は通用しません。明らかな格差がある場合、その格差に応じて、時には冷徹に判断して行動しなければならないことがあります。こういう場合にPLの資質が問われますし、他のメンバーもPLの指示に従って行動しなければなりません。

  5. エスケープと沈殿

    メンバーの誰かが怪我、体調を崩した、天候があまりに悪く、当面回復しそうにない、などという不慮の事態に陥った場合、PLは行動を続けるか否かを素早く判断しなければなりません。

    もし下山しなければならない場合は前述のエスケープルートをたどって下山します。怪我人や病人がいる場合はその人の搬出を第一とし、必ずしも全員が一度に下山するとは限りません。その後、搬出を終えて、再び行動を続ける場合であれば、それまでは他のメンバーは沈殿(同じ小屋に残る)することになります。この場合はPLかSLがそれぞれ搬出側と沈殿側に分かれ、各自で判断しなければなりません。

    悪天候で沈殿する場合、その判断は早ければ早いほどよいでしょう。判断が迷うと、それだけ他のメンバーに不安を与えることになります。この場合に役立つのが「気象解説(後述)」という技術です。雲の流れ、風向と、前日にラジオでとった天気図をみて、数時間後の天候を予測し、行動できそうであれば、多少の悪天候でも行動したほうがよいでしょう。
    駄目だと判断した場合はすばやく沈殿を決定し、その日はテントの中や小屋の中で退屈な一日を過ごすことになります。こういう時のために多少の遊具を持参するのも手です。私の場合は文庫本などを持っていったりしますし、メンバーとのおしゃべりに明け暮れることもあります。

    沈殿時の食事は「予備食」として用意したものを使うほうがよいでしょう。

  6. 観天望気と天気図

    観天望気はおよそ2時間おきに雲量、雲向、雲質、風向、風量と天候を確認する作業です。これとラジオでとる天気図を照らし合わせて天気の予測をすることを気象解説といいます。

    観天望気における天候の判断基準は雲量で判断します。空全体を見て雲の割合がどのくらいあるかで決まります。

    ◎雲量と天候(単位は%)

      快晴
    雲量 0〜10 20〜70 80〜100 降雨時

    雲の種類(層雲、積雲など)はその後の天候の予測の大きなヒントです。層雲(層のように広がる雲)、とりわけ高層雲(巻層雲よりも低い雲)が出ている、もしくは積雲(いわゆるもくもく雲)が他の雲とくっつき始めているような状態が見られるときは、悪天候であるか、もしくは数時間後に雨が降るということが予測できます。他にもいろいろ予測する方法がありますが、経験と、より専門的な知識が必要となります。

    複数パーティの場合は、気象解説の知識を持つ人が最低一人、いたほうがよいでしょう。

  7. お楽しみ

    山ではとにかく色々なお楽しみがあります。朝焼け、星空、遠方の絶景、植物観賞などなど・・・。まぁそれは私が云々と言うよりも実体験すれば分かることなので置いておきましょう。

    わたくし、小バエの登山における最大の楽しみは「雪渓かき氷」を食すことです。

    夏になると大半の雪は溶けてしまいますが、それでも場所によっては一年中雪が溶けない、いわゆる万年雪のところがあります。南アルプスは南方にあるので、残念ながらほとんど全ての雪が溶けてしまいますが、北アルプスは各所に雪が見られます。ルートとして有名なのは北アルプス最北部の白馬大雪渓付近、中南部の涸沢岳下の大雪渓、北部の五色ヶ原などがありますが、とにかく至る所に小さな雪渓があるので、それで十分です。

    その雪渓も表面は風で舞ってきた土埃や登山者の靴の泥などで汚いのですが、ブキで掘ると、下からはきれいな白い雪が出てきます。それをバールに入れ、あらかじめ持参してきた蜜などをかけて食すわけです。あんみつやフルーツの缶詰をぶっかけるのもOKです。この甘さは暑い日差しに照らされて歩いてきた私たちの身体の疲れを一気に吹き飛ばすほどのおいしさがあります。恐らく下界で同じものを作っても大しておいしいものにはならないと思いますが、3000mでかき氷を食す趣深さというものがおいしく感じさせるのかもしれません。是非是非お試しあれ!

    ともかく、山というのは、禁欲的で苦しいことばかりというイメージを抱きがちですが、イメージを空白にしていってみると、思ったよりもずっと、いろいろなことを発見できる場所です。行こうと思えば誰にだって行くことができるところ。そんな閉鎖的なところではないと思います。ここでちょこっとだけ知識を仕入れて、あなたも山に行って見ませんか?

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