登山ノススメ
初級冬山装備編その2・行動時
- 行動時の装備
- アタックザック
これがないとお話になりません。装備の基本中の基本。
ザックには様々な大きさがあり、単位はリットルであらわします。ハイキング用の20リットルから、長期縦走用の100リットルまであり、冬山においてはル〜80リットル〜最大の100リットルのザックが必要です。メイカーは「モンベル(Montbell)」が大量生産のため、100リットルでも¥12000ほどで買えますが、作りが雑なのでちょっとした負荷で紐が切れたり、ほつれたりすることがあります。標準的なザックは、100リットルで¥25000〜¥40000します。
- ザックカバー
冬山では濡れる要素が強いので、必需品です。80リットルで¥3000前後。
- スキー一式
山スキー用の板というものがあります。スキーの先にカラビナ(後述)を入れるためです。あとはビンディングがゲレンデ用と大きく異なり、踵が外せる構造になっています。ゲレンデ用よりも開放値が低めで、ビンディングが外れやすくなっていますが、これは山スキーのほうが難易度が高く、転倒する確率も高いため、危険を防止するための構造です。なお、ストックはゲレンデスキー用のものと何ら変わりありません。スキー板¥15000前後、ビンディング¥30000前後、ストック¥5000前後。
- シール
スキー板の裏に貼り付けるすべり止め。板先端に付属の金具をつけて貼り付けます。それほど傾斜のない斜面を登るときは、このシールを付けて登ります。シンセティックというナイロンとポリエステルの合成繊維でできており、グリップ力に優れ、丈夫なことが特徴。グルーという糊でつけます。¥4000前後。
- スキーアイゼン
シールだけでは登りきれないというきつい斜面や、アイスバーンの固い斜面を登る時に使います。ビンディングの下に噛ませて取り付けます。¥5000前後。
- アイゼン
岩斜面や、きつい斜面を登るときに使う、最も基本的な冬山における装備。金属の刃がついており、靴底に取り付けます。装着法にはワンタッチ式(もっともポピュラー)、1本締め(踵のバンドのみを締める)、2本締め(踵とくるぶしのバンドを締める)などがあります。なお、刃の数によって用途が異なります。一般的には12本刃が使われ、¥15000位します。
- 4〜6本
軽アイゼン。すぐに取り付けることができます。主に夏山において、初心者が雪渓の上を通るときや、冬山でも森林限界を超えない程度(2000m以下)の非常に難易度の低い雪山歩きに使われます。
- 10本
難易度の低い雪山用。
- 12本
一般に冬山でよく使われるもの。日本ではほとんどこれが使われます。
- 14本
氷壁やザイルを使わないと登れない、最高難易度の雪山で使われます。日本では谷川岳や穂高岳連峰中西部、槍ヶ岳北鎌尾根など、ごく限られた難所を登る際に使われます。
なお、余ったバンドはしっかりとしまいこみ、金具は足の外側にします。理由はロングスパッツと同様、金具がアイゼンの刃にかかって転倒するのを防ぐためです。
- ピッケル
アイゼンと並び、冬山装備では最も基本的なもの。歩く時の第三の足として使われるのが主な用途です。また、急斜面を登るとき、カッティング(雪を削って足場を作る)を作る役目にもなり、ザイルワークの時のビレイ(確保)の支点、滑落停止(訓練編で後述)をとるときの制動役としても使われる、大変重要な装備です。
ピッケルを選ぶときは、手を下げて持った時にくるぶしあたりにくる長さにしましょう。
- ザイル
山におけるロープ。長さは物によっては数十mほどのものもあります。主に、複数パーティのとき、難所を通過する際にお互いの安全を確保するために行うザイルワークで使います。
- 細引き
丈夫な紐。長さ3mくらいのものをこう呼び、主にザイルワークのつなぎ目などに使われます。2本は必要です。
- シュリンゲ
丈夫な紐の1mくらいのものをこう呼び、ザイルワークにおいて、スワミベルト(下述)とザイルを結びつけるつなぎ目やスキー板を使わないときにザックに結びつけるためなどに使われます。こちらも2本は必要です。
- カラビナ
鉄のわっかです。ザイルワークで使います。スワミベルト、ピッケルとザイル、シュリンゲ、細引きを結びつけるための支点となります。ねじで固定するものを1枚、そうでないものを2枚用意します。
- スワミベルト
ザイルワークの時にザイルと体を結びつけるために必要不可欠なベルトです。
なお、斜字体になっている上の5つの装備(ザイル〜スワミベルト)は、ザイルワークの際に使うものなので、初級冬山登山で使うことはありません。ただし、シュリンゲや細引きは、装備を固定するための紐としても使えるので、持っていく必要がります。
- ヘルメット
岩場を歩くときは必ずつけます。滑落時に頭への衝撃を軽減するためです。
- サングラス(ゴーグル)・・・雪山は太陽の光が雪を反射して目を痛める(雪盲)ことがあり、日差しが強いときは必ずつけるべきでしょう。
- メガネバンド
サングラスは付けたり外したりすることが多いので、いつでも付けられるように首から下げましょう。
- コンパス
冬は夏と違って読図の技術が大変重要になり、そのためにはコンパスが欠かせません。
- ホイッスル
冬はガスがかかったりホワイトアウト(行動編で後述)で周囲5mも見えなくなることさえあるので、パーティの連携を取るために、時々使うことがあります。
- ツェルト
風雪時の休憩やビバーク(不慮の停滞)時、寒気の遮断のために被せたりして使います。テントのフライシートをそれとして使うこともよくあります。
- 地図
夏と同様、国土地理院の1/25000と、昭文社のエアリアマップ「山と高原地図」を使います。
- 雨具
雪洞を掘る(訓練編で後述)ときに必要です。夏同様、ゴアテックス製の雨具です。¥11000前後。
- ゴム手袋
台所用のアレです。これも雪洞を掘るときに必要です。
- 輪かんじき
深い雪を歩くときにうずもれないようにするために使います。材質は藤の木、もしくはアルミであることがほとんどです。足の両側に太い木製、または金属製の刃があるのが特徴。時にはアイゼンと併用することもありますが、そのときはひっくり返して使います。大きさは35cm×20cm程度。
- ペナント棒
棒つきの旗です。旗の布は必ず赤です。広いルートをピストンで歩くとき、人が通ったという目印や帰りの道標として使います。状況次第で30〜150mおきに1本使います。50〜90本くらい必要です。布の予備も30枚くらい必要です。なお、縦走の場合は必要ありません。
- 無線
遭難する可能性は夏山よりもずっと高く、これがないと捜索依頼もできないので、必要です。なお、アマチュア無線4級の免許が必要です。
なお、通信技術の発達により、携帯電話で代用できるようになりつつあります。携帯電話は、南北アルプスの稜線上であれば、かなり高い確立で電波が届いています。
- 発煙筒
同様に遭難時の目印として使います。
- その他の予備
シールの先端のゴム、ロングスパッツのゴム、アイゼンバンドの予備。
- 携帯電話普及による問題点
最近、特に冬山での遭難者の救助者数が急激に増えたそうです。これは 山岳地帯で携帯電話の電波が届くようになったことが大きな原因となっていると思われます。
数日間の悪天候で沈殿したとき、食料が十分に残っているにもかかわらず、体力や気力の低下などによって救助要請をする人が激増したそうです。また、不完全な装備で山に入り、すぐに動けなくなっては、安易に救助を呼ぶという悪循環も、いまだに解消されていません。
これは夏山の例ですが、1998年8月、長野県安曇郡白馬村の白馬大雪渓から白馬岳へ登るルートで、60代の男性がルート外に迷い込んだということで携帯電話で救助要請を出し、ヘリで救出されましたが、こともあろうに、その男性は救助後に、救助隊員の静止を振り切って、再び白馬大雪渓に入り、なんと、もう一度救助要請を出すという出来事がありました。
携帯電話が普及したことで、山に対して甘い気持ちでいる登山者が増加傾向にありますが、ヘリで救助される場合、捜索に使用するヘリコプターの出動費用は30分につき40〜50万円、他に出動員の人件費(一人一日につき夏3万、冬10万)をあわせると、一度の救助につき250万円くらいは当たり前にかかります。
装備を整え、知識や技術、そして心構えを身につけていけば、遭難が起きる確率は激減します。そして、食料を多めに持っていきさえすれば、数日の沈殿など、さほどのことにもなりません。
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